金融安定理事会(FSB)
【執筆】株式会社トリロジー
【登録】財務省近畿財務局長(金商)第372号
【加入】日本投資顧問業協会 会員番号022-00269
金融安定理事会(Financial Stability Board, FSB)は、国際的な金融システムの安定性を維持・向上させるために設立された国際組織です。2009年に世界金融危機を受けて設立され、各国の金融規制当局、中央銀行、財務省などが連携して国際的な金融規制や監督の調和を目指しています。主に金融政策やリスク管理に関するガイドラインを策定し、加盟国が金融の健全性を保つための規制を実施するための枠組みを提供しています。
設立と背景
金融安定理事会は、2008年のリーマン・ショックを契機に、金融システムの脆弱性が世界経済に深刻な影響を及ぼす可能性が認識され、G20サミットの合意により2009年に設立されました。それ以前には、金融安定化フォーラム(FSF)として活動していましたが、FSBへの改組により、参加国とその範囲が拡大し、権限も強化されました。
主な目的と役割
FSBの主な目的は、国際金融システムの安定性の維持であり、そのために以下のような役割を果たしています。
- 金融規制の調和と強化:
- 加盟国の金融規制当局と連携し、規制の統一性を図るために基準やガイドラインを設定しています。例えば、銀行の自己資本規制(バーゼル規制)やシステム的に重要な金融機関(SIFI)の監督などがその一環です。
- システミックリスクの特定と評価
- 国際的な視点から、金融システムに影響を与えるリスクを特定し、分析します。特に、リーマン・ショック以降は、金融機関の破綻がもたらすリスクに対処するために、ストレステストの実施や倒産処理の計画策定を推奨しています。
- 政策の助言と勧告
- 各国の金融当局に対し、リスク管理や資産運用に関する政策提言や勧告を行っています。また、金融業界のデジタル化や金融技術(フィンテック)の発展に対応するための方針も策定しています。
主要な活動内容
FSBは、さまざまな分野にわたり金融規制や監督の基準を設けています。
システム重要金融機関(SIFI)の管理
FSBは、破綻が国際的な金融システムに多大な影響を与える「システム重要金融機関(Systemically Important Financial Institutions, SIFI)」を指定し、特別な監督と規制を行うことを各国に推奨しています。このリストには、国際的に影響力の大きい銀行や保険会社が含まれ、破綻リスクを減らすための高い自己資本比率の維持が求められます。
銀行の資本規制の推進
FSBは、バーゼル規制(特にバーゼルIII)を支援し、加盟国の銀行がリスクに備えた十分な自己資本を持つように促しています。バーゼルIIIは、2008年の金融危機の反省から策定された自己資本比率規制で、銀行が不測の損失に耐える能力を高めることを目的としています。
暗号資産やフィンテックの監督
デジタル資産やフィンテックの普及が進む中、FSBは暗号資産やデジタル決済のリスクに関する勧告を発表しています。これには、サイバーセキュリティやプライバシー保護、消費者保護といった視点が含まれ、暗号資産がもたらすリスクを軽減するための枠組み作りが進められています。
国際決済システムの監視
国際的な決済システムの透明性と効率性を高めるため、FSBは国際決済の監視と改善を図っています。クロスボーダー送金の効率化や、各国間の送金手数料の引き下げが重要視されており、この分野ではブロックチェーン技術の活用も含めた議論が進んでいます。
組織構成
FSBは、世界の主要国および地域の中央銀行、金融監督当局、財務省などが参加しています。現在、G20諸国やその他の金融中心国からのメンバーが含まれており、以下のような構成で活動しています。
- 総会
- 最高意思決定機関で、加盟国の財務大臣や中央銀行総裁が参加し、金融安定に関する重要な政策方針を決定します。
- 運営委員会
- FSBの戦略的な運営と主要なプロジェクトの進捗を管理する役割を担います。
- 各種ワーキンググループ
- 金融システムの特定分野(銀行、保険、資本市場など)において専門家が集まり、規制やリスク管理に関する調査・提言を行います。
FSBの今後の展望
FSBは、特に以下の分野で活動のさらなる強化が期待されています。
- 環境リスク管理
- 気候変動リスクが金融システムに与える影響に対するガイドラインを策定し、グリーンファイナンスの推進を目指しています。
- デジタル金融の規制
- フィンテックや暗号資産市場の急速な拡大に対応するため、デジタル資産の規制強化が進められています。
- 危機管理
- 新たな金融危機に備え、危機管理の枠組みの強化や、国際的な金融システム全体の復元力向上を図ります。
まとめ
金融安定理事会(FSB)は、国際金融システムの安定を確保するため、システム重要金融機関の監督やバーゼル規制の支援、デジタル金融や気候変動リスクへの対応など、多岐にわたる活動を行っています。これにより、加盟国がより健全な金融市場を維持し、国際的な連携を通じてリスク管理や規制を強化しています。
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