カーボン・クレジット市場
【執筆】株式会社トリロジー
【登録】財務省近畿財務局長(金商)第372号
【加入】日本投資顧問業協会 会員番号022-00269
カーボン・クレジット市場は、温室効果ガス(GHG)の排出を削減する取り組みを促進するための市場です。この市場では、企業や団体が排出削減により得られた「カーボン・クレジット(Carbon Credit)」を購入・売却することができ、地球温暖化対策として活用されています。企業が自社の排出目標を達成するための手段として、または世界的な気候変動対策の一環として、カーボン・クレジットの取引が活発に行われています。
カーボン・クレジットの概要
カーボン・クレジットは、温室効果ガスの削減や除去の活動によって創出されるCO2削減証書です。例えば、再生可能エネルギープロジェクト、森林保護活動、エネルギー効率向上プロジェクトなどがGHG削減効果をもたらし、その削減量に応じてカーボン・クレジットが発行されます。1トンのCO₂削減につき1カーボン・クレジットが発行されるのが一般的です。
規制市場とボランタリー市場
カーボン・クレジット市場には、以下の2つの市場が存在します。
- 規制市場(コンプライアンス市場)
- 政府や国際機関による法的規制に基づいて運営され、排出上限を超えた企業は、カーボン・クレジットを購入して排出削減目標を達成する必要があります。EUの「EU排出量取引制度(EU ETS)」が代表例です。
- ボランタリー市場
- 法的規制に基づかない自主的な取引市場で、企業が自発的にCO₂削減に取り組むために利用されます。たとえば、企業がカーボン・ニュートラルやネットゼロ目標の一環として、削減分のクレジットを購入するケースが該当します。
カーボン・クレジット市場のメカニズム
カーボン・クレジット市場の取引は、企業が排出削減目標の達成やカーボン・オフセットのためにクレジットを購入し、直接排出を削減することが困難な部分を補うメカニズムです。
キャップ&トレード方式
キャップ&トレードは、政府が排出上限(キャップ)を設け、その範囲内でクレジットを取引できる制度です。排出枠を超えた企業は追加のクレジットを購入する一方、余剰分を持つ企業はクレジットを売却できます。市場メカニズムにより効率的に排出削減が図られ、経済的なメリットも生じます。
カーボン・オフセット
カーボン・オフセットは、企業が他の場所での排出削減プロジェクトに投資し、その効果を自社の排出削減に充当する方法です。例えば、森林再生プロジェクトや再生可能エネルギーへの投資が含まれます。これにより、企業は排出量をオフセットし、カーボンニュートラルを達成することが可能です。
カーボン・クレジット市場の課題とリスク
カーボン・クレジット市場には以下のような課題やリスクが存在します。
信頼性の確保
一部のカーボン・クレジットプロジェクトは、実際のCO₂削減効果が十分でない場合や、透明性の欠如が問題視されるケースがあります。カーボン・クレジットの信頼性向上のためには、独立機関による第三者検証が求められています。
「二重カウント」のリスク
二重カウントとは、同じ削減量を複数の組織が報告するケースで、特にボランタリー市場において問題となります。これを防止するためには、厳密な記録と追跡が必要です。
価格変動
カーボン・クレジットの価格は、供給と需要のバランスにより変動します。特に規制市場では政策変更によって価格が大きく変動するリスクがあり、安定した取引を難しくする要因となっています。
カーボン・クレジット市場の将来展望
今後、カーボン・クレジット市場は、気候変動対策の一環として一層の拡大が期待されています。
市場の標準化
各国での市場ルールや認証制度を標準化する動きが進んでおり、国際的な合意のもと、取引の信頼性と透明性を確保するための規制整備が進む見通しです。
デジタル化とブロックチェーン技術の活用
ブロックチェーン技術を活用してクレジットの追跡や取引の透明性を高める動きも進んでいます。これにより、二重カウントのリスク軽減や迅速な取引が可能になり、グローバルな市場での流通が促進されるでしょう。
企業のESG評価の一環としての活用
ESG(環境・社会・ガバナンス)評価において、企業がどれだけのCO₂削減を実施したかが重要な要素となっているため、カーボン・クレジットの活用は企業の評価を高める手段としても重要です。
まとめ
カーボン・クレジット市場は、気候変動に対する国際的な取り組みとして注目されています。クレジット市場は規制市場とボランタリー市場に分かれ、特に企業の排出削減における補完手段として重要です。しかし、信頼性の確保、二重カウントの回避、価格変動などの課題も存在します。市場の標準化やデジタル化の進展によって、より効率的で透明性の高いカーボン・クレジット市場の実現が期待されています。
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