利小損大に陥る人間の本能

執筆者

【執筆】株式会社トリロジー
【登録】財務省近畿財務局長(金商)第372号
【加入】日本投資顧問業協会 会員番号022-00269

「利小損大」に陥る原因は、人間の深層に根ざした心理的な傾向や本能にあります。これらの心理的バイアスは、投資家が合理的な意思決定を妨げ、結果として利益を早期に確定し、損失を抱え続ける行動につながります。

1. 損失回避バイアス(Loss Aversion Bias)

損失回避バイアスは、ダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーの「プロスペクト理論」で提唱された概念です。この理論によれば、人は同額の利益よりも損失の方が約2.25倍強く感じる傾向があります。例えば、100ドルの利益を得る喜びよりも、100ドルを失う痛みの方が強烈に感じられるため、投資家は損失を避けようとするあまり、損失が拡大するまでポジションを保持し続けることがあります。この心理的な痛みを避けるために、利益は早く確定し、損失は「まだ回復するかもしれない」という希望で先延ばしにされるのです。

2. 希望的観測と確認バイアス(Confirmation Bias)

希望的観測とは、「損失を抱えたポジションがそのうち回復する」という根拠のない楽観的な期待です。これにより、損失が拡大してもポジションを保持し続けることがあります。さらに、確認バイアスが加わると、自分の信念を支持する情報だけを集め、それに反する情報を無視する傾向が強まります。結果として、状況が悪化しているにもかかわらず、その事実に目をつぶり続けてしまうのです。

3. サンクコスト効果(Sunk Cost Fallacy)

サンクコスト効果は、既に投資した資金や労力を惜しむあまり、損失を確定できずにさらに悪化させる行動です。投資家は「ここまで損を出したのだから、もう少しで回復するかもしれない」と考えてしまい、損失を確定する決断を先延ばしにします。この結果、損失がさらに大きくなるまでポジションを保持し続けてしまいます。

4. アンカリング効果(Anchoring Effect)

アンカリング効果とは、最初に提示された情報(アンカー)に強く影響され、その後の意思決定が歪められる現象です。例えば、購入した株価がアンカーとなり、現在の市場価格が下がっていても「元の価格に戻るまで待とう」と考え、ポジションを維持し続けます。これにより、回復の見込みが低いにもかかわらず損失が拡大していきます。

5. 過信と自己過信バイアス(Overconfidence Bias)

投資家はしばしば自分の分析や判断を過信しがちです。この過信は、損失を抱えているポジションについて「自分の判断は正しい、いずれ相場は戻る」と信じ込む原因となります。これにより、早めに損失を確定すべき局面であっても、その判断を先送りにしてしまいます。

6. 短期的満足と認知的不協和

投資家は、短期的な満足感を求める傾向があります。利益を早期に確定することで、「勝った」という感覚を得ることができ、これが行動を強化します。しかし、損失を確定すると認知的不協和(自分の選択が間違っていたという不快な感覚)が生じるため、これを避けようとする結果、損失を抱えたまま放置してしまうのです。

7. 結果に対する後悔と恐れ(Regret Aversion)

投資家は、損失を確定した後に相場が回復した場合、後悔することを恐れます。この後悔を避けるために、投資家は損失を確定せずに市場が回復するのを待つ傾向があります。しかし、これが結果的に損失を拡大させることになります。

結論

「利小損大」に陥る人間の本能は、損失回避、希望的観測、サンクコスト効果、アンカリング、自己過信など、さまざまな心理的バイアスに起因します。これらのバイアスに対処するためには、客観的なデータに基づいた取引ルールを設定し、感情に左右されないトレードを行うことが不可欠です。また、自分の心理的な弱点を理解し、冷静な判断を保つための訓練やサポートシステムを活用することも重要です。成功する投資家は、これらの本能的な傾向を克服し、計画的かつ合理的な取引を続けることが求められます。

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