平均への回帰
平均回帰と呼ばれる現象
一般的に、完成された心理学の分野において、 「前向きな行動に報酬を与えることは効果を上げるが、失敗を罰することはその後の効果を上げることにはつながらない」 ということが、さまざまな実験から証明され広く知られている。
ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カールマン(以前、本ブログ内 利小損大のメカニズム でも紹介)は、 1960年代、イスラエル空軍の飛行教官たちに、行動修正理論を飛行訓練へ応用するという講義の中で、前記が十分に納得がいくよう説明を行った。
ところが、受講生である飛行教官たちは、その理論が正しくない、さらには真逆であると主張した。 「もちろん私は、見事な操縦をした訓練生には、それを褒めたたえるようにしていますが、その訓練生の操縦は、次回は決まって悪くなります。」 「逆に、下手な操縦をした生徒たちを怒鳴りつけてきましたが、おしなべて次回は操縦が改善されます。」 「つまり、私の経験は、それと合致しません。」 と... 他の教官たちも皆、同意見だった。
彼はこの矛盾についての答えを、「平均回帰※」と呼ばれる現象にあると解説している。
※平均回帰とは、どんな一連のランダムな事象においても、ある特別の事象のあとには、純粋の偶然により、十中八九、ありきたりの事象が起こるというもの。
たまたま...
これに従えば、前述の話はこうなる。
パイロットの訓練生たちは、全員が戦闘機を飛ばす一定の個人的能力を有していたが、 技術レベルの引き上げには、多くの要素が関係しており、技術の向上が目に見えてわかるというものではなかった。
また、特別にうまい操縦とか特別に下手な操縦というのは、どれもたいてい運の問題と言えた。
もし、ある訓練生が、通常の彼の実技レベルをはるかに超えて、とてつもなくうまい操縦をしたとすれば、 翌日、その訓練生は、彼の標準に近い、最低でも前日よりは下手な操縦をする確率が大きいだろう。 そしてもし教官が、前日彼を褒めていれば、褒めても何もよいことはなかったように見えるだろう。
逆に、前日ある訓練生がとてつもなく下手な操縦をし怒鳴られた場合は、同様のことから、 翌日は前日よりうまい操縦をする可能性が高く、これが教官の非難が功を奏したかに見えても仕方がない。
このことから、教官たちは「褒めることはいい結果をもたらさず、怒鳴ることが訓練生の腕を上げる」怒鳴ることが、強力な教育的手段であると結論付けていた。 だが実際には、それで何も変わっていなかった。
出所:The Drunkard’s Walk (たまたま ~日常に潜む偶然を科学する~)
システムトレードを用いたポートフォリオ運用
システムトレード・ポートフォリオ運用においても、 いま現在成績が良いもの、悪いものが混在するのは当然であり、 そのシステムトレードが本来持っている性能、ここではバックテストによって導かれた成績を指すが、 リアル運用成績は、結局はこの性能に回帰していくと考えられる。
したがって、現在成績が良すぎるものは悪くなり、その逆も然りである。 例えば勝率が良すぎるものは落ちていくであろうし、ペイオフレシオが悪すぎる場合は良くなっていく。
ただしリアルトレードでしか起こりえないスリッページや約定拒否、想定以上のスワップポイント支払いなど、検証不可能な不測の事態は致し方ない。 また悪意を持ったFX業者を使うことや、あるいは相場の知識に欠ける者によって作成されたEAも平均回帰には反する結果となるだろう。